ジブアシの小説

ジブアシの小説 雨水・2

もう子供を産むことはできない。

そのことを深く考えないようにすることにだけ細心の注意を払いながら、時間が過ぎていくことに期待するしかなかった。結婚して避妊しなければ、子供はいつか自然に授かるだろうと思っていた過去の自分を辛く思ってしまいそうになるたびに、洗濯とか、掃除とか、友達の集まりに興味もなく顔を出したりとか、そういうことをして、自分を現実の軸に立たせていた。

でもそれは、薄い板だけで水門を閉ざすようなものだ。

今はまだ水の流れは速くなくても、遠くから暗い雨雲が近づいてくるのを私は知っていた。その雲の降らす雨粒の重さは、そう遠くない未来に激流になって私の事を飲み込むだろう。それがわかっているのに私は何もすることができず、ただ板の割れ目を手で押さえながら、雨を待つように怯えているだけだった。

そして、達彦は私を抱かなくなった。

もう、そういうことはそれほど頻繁にしていたわけではなかった。それでも私は達彦に求められることが好きだった。いちばん単純な好意で、いちばん単純な欲望で、お互いの体に触りあうのが好きだった。その安心は私を満たした。それはまだ、私たちには幸せなことだったのだ。

体が完全に回復するまではともかく、もう問題ないと医者に許可を貰ってからも、達彦は私を抱こうとはしなかった。その腕の中で丸まって眠ることはできる。おなかの傷跡に手を置くことはしてくれる。でも抱いてはくれなかった。そのことを、私たちは話し合わなかった。話し合うことを避けていた。

それが悲しいと、達彦に伝えることすらできなかった。

達彦の戸惑いがベットの中で伝わってくるのだ。

達彦の性器が太ももに当たっても、それが硬くなることはもうなかった。私も私に深く触れて欲しいとは思えなかった。私は乾いたままで、あの潤いは、もう私には溢れなかった。

そういう時、私たちは目を閉じて、眠ったふりをした。

体を強張らせたまま、嘘の眠りがやがて本物の眠りになるまで、じっと息をひそめることしかできなかった。

私の子宮は、からっぽだ。

そこにはもうなにも宿らないということに気付いてしまうことを、二人は避けていた。もうどれだけ私の中に達彦の精液を流し込んでも、私が妊娠することはない。体でその事実に触れてしまうことを、私たちは恐れたのだ。

限界は静かに近づいていた。

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